「オオコワ」と鳴くカラス
6_初老の男
 白髪頭の初老の男が、 時々生ゴミの近くにいなくなることがあるのを儂は発見した。 8時20分に生ゴミを出すのはいつも通りだが、 8時30分を待たずにバイクで出かけることがある。  この辺りは、8時40分には収集車がやってくる。 わずか10分間の勝負なのだ。 残念ながら、 我々カラスは、一週間程度の繰り返しは記憶できるが、 それ以上となるとはっきり記憶できない。  だから、この初老の男が何週間おきに出かけるかはわからない。 しかし、ゴミ収集車が来るまでにいなくなるので、 その日は、 落ち着いてこの家の生ゴミをあさることができる。  お礼と言っては何だが、突っつき出したゴミは最小限に抑えている。 これがカラスの礼儀というものだ。 ただし、若カラス達にはこんなことできないので、 奴らには、初老の男がいなくなることは教えていない。 カラスの好奇心から、 3月のある日、 この初老の男がバイクに乗って出かける時、 後をつけてみた。 カラスは長距離飛行は得意ではないが、 幸い県道に沿って走ってくれたので、 疲れたら、 電柱で一休みしながら追いかけた。  北へ5分ほど走ると左の支線に入った。 隣村の集落である。 この辺りは、儂の縄張りの北の端にあたる。  JRの高架下をくぐると、 交差点がある。 この男のバイクが高架下に入った時、 ドーンという大きな音がした。 儂からは見えなかったが、 儂が高架を越したところで、 初老の男がバイクを押して、 橋のたもとまで歩いていくのが見えた。 みると、バイクの左半分がへこんでいる。

 一方、交差点には大型のボックスカーが止まっている。 中から中年の太った女が出てきて、 車の前をかがんで見ている。  初老の男は、 近くにいた道路工事の作業員と何か話をしている。 儂には聞こえない。たとえ聞こえても意味はわからないが。  毎回、こんなことをするために出かけていたのかと思ったが、 バイクの左半分がへこんでいるのが気になる。 しばらくすると、サイレンを鳴らしてパトカーがやってきた。 警官が2名下りてきて、 写真を取り、メジャーで距離を測り始めた。  事故だったのだ。 20分ほどして、パトカーは帰って行った。 初老の男は、女からメモをもらうと、 再びバイクを走らせた。  さらに北へ5分、山沿いの病院に入って行った。 「ははぁん。病院に通っていたのか」  残念なことに、確認したのはここまで。 この辺りは儂の縄張りではない。 ゆっくりしていられない。 幸い今日は、この辺りの生ゴミ収集日ではないのか、 カラスの姿が見えない。  もし、この辺りの縄張りカラスと出会うと、 面倒なことになる。 儂は「渡りカラス」と見なされ、 奴らから袋叩きにされるに違いない。 儂は、 カラス目を避けながら急いでねぐらに戻った。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿
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