「オオコワ」と鳴くカラス
3_カモ
儂の縄張りの生ゴミ収集日は水曜と土曜。 その日の6時20分頃、ゴミ出しにしては少し早い時刻に、車でゴミを捨てに来る男がいる。 カラスの仲間内では、この男をカモと呼んでいる。 鳥ではない、人間だ。 車を止めると、周りに人がいないことを確かめ、後ろに回りトランクから生ゴミを取り出して集積場に置く。 その後、網をきちっとかけようとしない。ひどいときは全くかけないときもある。

このときは、あのアホガラスでさえ、楽に生ゴミあさりができる。 だから皆は、この男をカモと呼んでいる。
くどいようだが「カモにする」のカモで、鳥のカモではない。 儂ぐらいのベテランになると、ゴミの散らかし方も、後で人間が掃除しやすいように考えてやっている。 ところがアホガラスは言うに及ばず、若ガラスのほとんどは、無頓着にゴミをまき散らかす。 カモが立ち去って20分もすると、10m四方はゴミだらけになっている。 目に余った儂は、一度、若ガラス達に注意したことがある。
「うるせえ。バカ。引っ込んでろ」
このとき、恥ずかしながら儂は「オオコワ」と鳴いてしまった。
そんなある日、この集積場にゴミ出しに来た女と、あの白髪頭の初老が何か話をしている。 言葉は分からないが、様子から察するとこのゴミの散らかり具合について、 どうしようかということのようだ。 北や南を指さしながら、初老の男が何か説明している。
その後まもなくして、あのカモが捨てていたゴミ集積場がなくなった。 網が撤去されたのだ。
次の生ゴミの収集日、いつものように6時20分頃、 車でやって来たカモは、網がないことに気がついた。 さすがにここに捨てることはできないと考えたのか、 いったん止めた車を再び発進させた。
儂は電柱の上からその様子を眺めていた。 あのカモは20mほど南に走り、次の集積場に車を止め、そこに生ゴミを捨てて行った。 見に行くと、やはり網をきちんとかけていない。若ガラス達が集まってきて、 あっという間に辺りはゴミだらけになってしまった。
我々カラスにとっては、カモの場所が移動しただけであとは何も変わらなかった。 特に、アホガラスは簡単に生ゴミあさりのできる餌場が、消えなかったことを大いに喜んでいた。 儂の縄張りでは、このカモ以外に車で生ゴミを捨てに来る人間はいない。
後で分かったことだが、カモはこの集落の人間ではなく、少し北のニュータウンの住人であるらしい。 ゴミ出しに来た女がゴミ袋を調べると、中に名前が書かれた領収書があったそうだ。 いざというときは、いつでも訴える準備をしていたそうだ。なかなか人間もやるわい。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿