「オオコワ」と鳴くカラス
2_アホカラス
 儂のグループの若ガラスで「アホ」と鳴くカラスがいる。 よく人間は「アホ、アホ」とカラスに言われて、 腹を立てている奴がいるが、 この若カラスは、本当にアホで、自分のことを言っているのだ。  どれだけアホかというと、 生ゴミを狙う瞬間に必ず 「アホ」 と鳴く。人に見つかるだろう 「アホ」  儂のような知恵カラスになると、 嘴で網を少しずつ上に持ち上げて、 すばやくビニール袋をくわえ、 網から引きずり出す。 この微妙なタイミングが決め手なのだが、 このアホガラスは、 嘴で網を上げるところまでは真似ができるのだが、 待ちきれないのかそのままビニール袋をくわえて引こうとする。 つまり、網とビニール袋の両方をくわえて引くものだから動かない。 動くわけないだろう 「アホ」  ある時、 やはり網を持ち上げている最中に、 中のビニール袋に手を、 いや嘴を出したものだから網が落ちてきて、 しばらく網の中でもがいとった。 今は、鳥獣保護法で、儂らカラスも守られているのでほっといたろかと思ったが 「烏の目にも涙」 泣いとったので助けてやった。

 最近、 近くのマンションを覗いていると (言っておくがカラスは、窓から中を覗いても訴えられることはない) テレビが映っていて、 人間でも「アホ」としか言わない奴がいることを知った。 眼鏡をかけたヒョロヒョロの男だが、 こいつが 「アホ」 と言うと、 なぜか笑いが起こる。 「アホ」だけであれだけの笑いが取れるなら、 うちのアホカラスが網の中でもがいている様子だと、 大爆笑間違いない。 残念だが、あいつはカラスでテレビに出られない。 「アホ」 と鳴くカラスは意外と多い。 しかし、 うちのアホカラスは自分に対して言っているので、 哀愁がこもっている。 しかし、人間はそれを理解してくれない。  この前、小学生の登校の列の上で 「アホ」 と鳴いたものだから、 一番勉強のできなさそうな奴が腹を立て、 小石をアホカラスに投げつけた。 こんな時、 不思議なくらいによく当たる。 石は、アホカラスの尻に当たり 「アホ」 と言って飛んで逃げた。 この時の「アホ」は明らかに、 当てた子供に対して言った鳴声だ。 哀愁ではなく怒りがこもっていた。  休みの日、 バス亭に何組かの親子連れがいた。 遊びに行くのか、 子供たちのテンションが高い。 しばらく、 電柱のてっぺんで聞いていたが、 何を言っているのかさっぱりわからない。 断っておくが、 儂は人の言葉はわからない。 けれども、 長年、人と共に暮らしてきたのだから、 言葉かどうかの区別はできる。  ところが、二十分ばかり、 この子供たちの声を聞いていたが、 言葉とは思えない。 聞いたままを並べてみると 「わぁー」 「ぎぁー」 「ぐぁー」 「うぉー」 「きー」 「きゃーきゃー」 「わぁーん」 「ぎょー」 「だー」 「……」 「まだ?」 おっと、これは言葉のようだ。  こんな具合で、 儂は、こいつらは近くに住む山ザルのグループかと思ってしまった。 隣の電柱で、 あのアホカラスも聞いていたが、 さすがに我慢できなくなったのか 「アホ」 と、哀愁のこもっていない鳴声を残して飛んで行った。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿
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