「オオコワ」と鳴くカラス
ブラックパス
 一種目目の競技が始まった。 舞台は漁師町カラスの本拠地、漁港。
 完全なアウェイとなるが、 幸いなことにサポーターは、 どちらも出場選手三羽以外の十二羽同士である。
 生活場所であることと、 向こうが出した種目である点、 相手側が有利かとは思える。
 ルールはこうだ。 三羽のうち一羽が、 釣り客の釣り上げたブラックバスを奪い取る。 そして、 そのバスをバトン代わりに次のカラスにパスする。
 つまりリレー競争だ。 そして、 最後にバスを受け取ったカラスは、 ブラックバス回収箱に投げ込む。 数の多い方が勝ちとなる。 環境に配慮したゲームである。
 釣り客は朝が早い。 どうしてこの連中は、 仕事でないとこんなに早く起きて釣り場にこられるのか不思議だ。 おかげで試合開始は早朝四時である。
 スタートは、 公平を期すために、 二人の釣り客が同時にブラックバスを釣り上げたタイミングで、 漁師町のボスが「ガー」と鳴く。
 お気づきだと思うが、 これは人間世界の「ゴー」のつもりである。
 漁師町カラス、 言葉はかなり進化している。 誤解のないように説明をさせていただくと、 カラス同士の会話が、 人間社会のようにスムーズに意思疎通が行われていると思われたら、 それは間違いだ。
儂はある日、 そうあの白髪頭の初老の男に無様な姿を見られた時から、 自分をカラスと自覚し、 同時に他のカラスとの違いを自覚した。 そして進化した。
 儂の周りに起る出来事を、 このように分かりやすく紹介しているが、 他のカラスが同じようにできるわけではない。
 カラスの言葉は、 基本語「カー」を元に、 カ行の「カ・ク・コ」を使って話す。
残念ながら、 「キとケ」の音は出せない。
 あとは身振り羽振りで補う。
 儂のような「オオコワ」などと話せるカラスなどいない。 だから、ボスの「ガー」も進化した言葉だと言ったのだ。
 今回のルールも、実際はかなり時間をかけて、 出場カラスたちに説明された。
 しかし、それではとてつもない時間を要するので、 今後も儂の言葉で説明させていただく。
 「ガー」の合図がでたのは四時三十分。 出場選手の紹介が遅れたが、 我々のチームは山カラスの三羽。 個々のカラスは、誰が誰だか全くわからない。
 まずは山カラスが先行した。 釣り糸の先に引っかかっているブラックバスに飛びついた。 嘴で尾を挟むと左右に二度、三度と首を振る。 針がブラックバスの口の中に食い込んでいるので、 なかなかはずれない。
 次の瞬間、 この山カラス、 釣り客に竿でボコボコに叩かれた。
 一方、 漁師町カラスはというと、 釣り客の後ろにそっと下りた。 釣り客は何か道具を取り出し、 ブラックバスから針をはずした。 その瞬間、 漁師町カラスは急ぎ足でブラックバスに近づき、 あっという間に、 バスをくわえて湖の方へ飛び出した。 釣り客の竿が届かない辺りで向きを変えると、 次のカラスの元へ一目散に飛んで行った。
 その後、 漁師町カラスは順調にブラックバスを運び、 合計五匹を箱の中に入れた。
 山カラスの方は、 釣り客が振り回す竿を、 左右によけながら埠頭を走り回り、 結局、 一匹も箱に入れることができなかった。 漁師町の完勝。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿
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