「オオコワ」と鳴くカラス
隣組
 儂の縄張りの南に、 漁師町を中心とした、 四キロメートル四方の縄張りをもつ十五羽のカラスがいる。 気性は激しい奴が多いが、 魚という上等な餌にありつけるので、 儂の縄張りにちょっかいを出すことはなかった。
 ところが今度、 駅の西側に家がたくさん建つといううわさが流れてきた。 家がたくさん建てば生ごみもたくさん出る。 カラスの生活圏が増えるということだ。
 これまでは山カラスが五羽、 縄張りを張っていたところだが、 そこを漁師町カラスが狙っているらしい。
 一旦、勢力バランスが壊れると、 抗争が長期化するのは人間のヤ※★社会と同じだ。 カラスの七割は保守を望んでいる。 儂もそうだ。
 そんなとき、 山カラスが漁師町カラスに対抗するために手を組もうとやってきた。 若カラス達は、 自分たちのねぐらが漁師町との境目にあるので、 連合に乗り気でいる。 ここはやはり長老にお伺いを立てようということになった。
山カラス五羽と一緒に、 墓地近くの長老のねぐらに十羽が集まった。 合わせて十五羽、 ちょうど漁師町カラスと同数なので、 勝負するなら今だなと長老は言う。 話しは決まった。 さっそく漁師町カラスに宣戦布告をすることになった。
 漁師町に誰が行くかとなった時、 山カラス五羽は振り向いて、 顔だけを半分こちらに向けている。 カラス世界では、 これは拒否を示すしぐさである。
 なんて奴らだ、 助けを求めて来たくせに、 こんな大事な役割を逃げるとは
「なぁ」
と振り向くと長老以下年寄りカラス、 中年カラス、 若カラスまでもが背中を向けていやがる。
アホカラスだけが目を輝かせて儂を見ている。
「お前はあかん」
声には出さなかったが、 目で合図を送った。
 アホカラスのやつ、 ウィンクされたと勘違いして近寄ってきやがった。 仕方がない、 儂が代表として漁師町に行くことにしよう。
 長老の助言で、 白い布をくわえて漁師町の縄張りに入った。 余談だが、 カラスの嫌いな色のごみ袋を作って、 生ごみから儂らを遠ざけようとした人間がいた。 たしか黄色だったと思う。 これだから腹が立つ。 もっとカラスをよく見て研究しろといいたい。
 儂らカラスが一番嫌いな色は
ト(ン)ビ色だ。
 漁師町の縄張りに入った。 左手の電柱の上、 右手のマンションの屋上に見張りのカラスが二羽いた。 白布を掲げているので攻撃はしてこない。 五分ほど東に飛ぶと、 漁港が見えてきた。
 この辺りが本拠地なのでボスがいるはずだ。 手前に寺があったので、 本堂の屋根に降りた。
(これも余談だが、この寺は初老の中学時代の校長の寺だということだ。どうでも良い話だが)
 しばらく待つと、 一羽のカラスが防波堤の方から飛んできた。 何の用だと聞くので、 駅の西にできる町の縄張りについて、 山カラスと我々が連合を組み、 漁師町に宣戦布告をすると告げた。
 ちょっと待て、 とこのカラスは防波堤の方へ戻って行った。 前にも話したが、 カラスの年はさっぱりわからない。 先ほどのカラスはボスではなかったようだ。 なかなか用心深い連中だ。 そう言えば、 先ほどのカラスの体つきは良かった。
「生ごみの質が違うな。 宣戦布告をしたが大丈夫か」
少し後悔が出てきた。
 先ほどのカラスが戻ってきた。 ボスが会うという。 こいつの後について防波堤に向かって飛ぶと、 その先端に平らな場所があった。 畳一枚分くらいの広さだが、 ここに一羽のカラスが立っていた。
 カラスはどんな地位の奴も、 どんな状況でもいつも立っている。 そうでない奴は病気か、死んだカラスだ。
「宣戦布告、受けよう。ではさっそく、種目について相談しよう」

「えっ」と思われた方が多いと思うが、 説明が後になって申し訳ない。 カラスは文字どおり馬鹿ではない。 抗争といっても互いを傷つけあう抗争はとうの昔に止めている。 今はカラスンピックで勝敗を決めることになっている。 まあ、一種の運動会のようなものだ。 三羽一組で勝負をするので、 今回は十五羽対十五羽なので五種目で争うことになる。 そして、 最後は全羽でカラスオケという合唱コンクールで勝負を決することになる。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿
前ページ← →次ページ