「オオコワ」と鳴くカラス
ムクの来襲
 これまでは「渡りカラス」に対して緩い団結力を発揮していた儂の縄張りのカラス達だが、 今回は本気だった。  六月の始め、若カラスから見慣れない鳥が公園の木にやってきたので追っ払ってやったと聞く。 次の日、その嘴がオレンジ色でハトくらいの大きさの鳥が、 数を倍にして戻って来たという。 若カラスはあわてて出払っていた三羽とアホカラスを呼び、 対抗したという。  すると次の日、 今度はさらに前日の倍の数で戻ってきたので、 やむなく公園を明渡したというのだ。

 その後、 若カラス四羽は儂のマンションの屋上に居候している。 このままでは儂の生活が脅かされる。 なんとか早くこの若カラス達を元の公園に戻したい。 この一心で長老に相談した。  長老の話しではその鳥はムクと言うらしい。 嘴と足の色のセンスがいいということで、 人間はコロっとだまされるらしい。 中には餌をやる奴もいるという。 我々カラスの嘴や足の色など知っている人間が、 いったい何人いるというのだ。 たいていは、 黒いカラスだから黒だろうと思っているだけで確かめた奴などいない。 ・・・・・・・・・・・・  確かに嘴と足は黒だ。 ほーら見ろというだろう。 しかし、それは結果論で、 自分の目でしっかり確かめて知ってほしいということだ。  まあ、色のことはともかく、 長老の話しでは寒くなればいなくなるのでほっとけという。 それでは、夏の暑い間、 あの居候達は儂のねぐらにいることになる。 「オォコッワ」 ちょっと興奮状態で鳴いてしまった。 「アッホー」 アホカラスもつられて叫びやがった。  だめだ、なんとしてもムクを追い払う方法を教えてくれと長老にすがった。 めんどくさそうな顔、 といってもカラスの顔の表情は変わらないが、 (こんな時は嘴を高く上げて頭を後ろに反らせるしぐさをする)で答えた。  長老の作戦はこうだ。 ムクのいない昼間に、 ごみをかき集められるだけ集めて公園内にばらまく。 糞も公園でする。 きたなくなったら人間がムクのせいだと騒ぎ出し、 役所がムクを追い出す対策を考えるというのだ。  年寄りが考えそうなずるい手だ。 次の日からカラスのごみ集めが始まった。 餌ではないごみ集めに、 若カラス達は文句ばかり言っていたが、 ねぐらに帰るためだとなだめすかした。 マンションから出て行ってほしいからだなんて、 本音は言えない。  一週間を過ぎると公園はごみの山と化した。  ごみを運んでいるところを絶対に人間に見られるなという、 長老の忠告も守った。 しだいに公園周辺の人間が、 臭い、やかましいと騒ぎ始めた。 ムクの鳴声は夏場のセミよりやかましい。 思惑通り、 すべての原因はムクということになった。 あとは、近くのスーパーの屋上でムク対人間の戦いを見物させてもらうだけだ。  一日目、まずは人間の花火攻撃。  夕方、ムクの大軍が帰って来たところをバンババンと連発花火があがる。 花火といっても音だけで爆竹に近いやつだ。 情緒もくそもない。 音がするたびにムクの大軍がそろって木から飛び上がる。 竜巻のように大きな渦を巻いていったん上昇はするが、 しばらくすると元の木に戻ってくる。 また、ババン。 上昇しては戻る。 これを何度も繰り返しているうちに花火がなくなった。 一回戦は人間の負け。儂達は無言でねぐらに戻った。  次の日、公園横の道路にごみ収集車が止まっている。 我々が集めたごみを回収しているのだ。 おまけに木の上に大きな網をかけている。 こんなことをしたら若カラス達も戻れなくなるじゃないか。 予想外の展開に儂は不安になった。  夕方、ムクの大軍が戻ってきた。 網の上にとまろうとしたが直接枝に乗れないため不安定ですぐに飛び上がる。 何度かそれを繰り返していたがだめだと分かると、 みんな周りの道路に下りた。  そして歩いて、 公園に入り網の下をくぐって楽々とねぐらに戻った。  こいつら、我々カラスと同じ歩き方ができる。  二回戦も人間の負け。  三回戦は花火と網を両方使って攻撃したが、 花火の音とムクの鳴声、 両方がやかましすぎると役所に苦情の電話が殺到し、 あえなく終了。  若カラス達は落胆した顔、 もちろん顔の表情はわからないが、 嘴を低く下げて頭を前に落とすしぐさをして、 ねぐらに帰った。  四日目、網は取られた。 これには儂もほっとした。 しかし、せっかく集めたごみはすべて撤去された。 夕方、スーパーの屋上から見ていると人間側に大きな動きは見えない。 ムクの大軍が戻ってきた。  すると公園の周りから一斉にライトが当てられた。 今度は光攻撃か。 びっくりした大軍は一度上昇して旋回したが、 しばらくするとねぐらに戻った。 ほとんど効果なしで人間の連敗。  この後、大学の先生とかいう偉い方が超音波などを試したが、 すべて効果なし。 結局、ムクはお咎め無しとなった。  長老が言ったように、秋になるとムクはいなくなった。 それまで、居候は儂のねぐらにおり、長い暑い夏が終わった。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿
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