「オオコワ」と鳴くカラス
むかつくトンビ
今日は長老のねぐらを訪ねた。
長老は縄張りの北にある墓地の竹やぶに住んでいる。
そうそう、儂が長老と呼ぶのはもちろん一番の年寄りということだが、
カラスはどうして年齢がわかるのか不思議に思うかもしれないので教えよう。
カラスは記憶力が弱いといったがそれは日常生活に必要でないもののこと。
儂には兄が2羽いたこととか、
親が一か月で巣から追い出したことなどはすべて覚えている。
だから、カラス同士で話を、もちろんカラス語で、していると、
自分の記憶と比べて多いか少ないかがわかる。
長老は儂よりもはるかに多くの記憶をもっている。
だから年寄りなのだ。
したがって、
アホカラスは年齢不詳だ。
もちろん体の動きなどにも年の差は出るが、
この世界、
ちょっとでも油断すれば敵に殺されてしまう。
だから年の差に比べると体力差はわずかしかない。
実際、
長老と言っているが、
餌を食う速さ、
量はアホカラスなど足元にもおよばない。
敵から逃げる速さは儂よりも速い。
長老のねぐらから帰る途中、
あの白髪頭の初老の男が墓掃除をしているのが見えた。
「ははん、あそこが奴の家の墓か」
4つの石碑が南北に並んでいる。
その前の雑草を、
大きな挟みで刈っている。
刈っては熊手でかき集め、
ゴミ袋に放り込んでいる。
時々、
墓石の陰にかくしてあるペットボトルを出して飲んでいる。
そのとき、
いきなり儂の右後方から二羽のトンビが飛び出してきた。
「オオコワ」
思わず出した儂の鳴声に反応して、
男は顔を上げた。
その時ちょうど儂は墓の東側の家の屋根を通り過ぎたところで、
男の視界から消えた。
男の目には二羽のトンビが上空に昇るところが見えた。

二羽のトンビは親子で、子に飛び方を教えているところだった。 親がみごとな回転を見せると、子が真似をするのだがきれいな円にならない。 すぐに親が逆回転で子の進路を遮ると、 子はまたその逆回転を真似る。 これを延々と繰り返しているのを、男は3分間だけ見ていた。 それを儂は木の上から4分間だけ見ていた。 儂は飛び方など親から習ってはいない。 そもそもまだ飛べない1カ月で巣から追い出されたのだから。 ひょっとしたらカラスがトンビより飛び方が下手なのは、 親の教育の差なのだとこのとき確信した。 鳥が空を飛ぶことなど当たり前で、誰から習うことでもない。 儂は時が来たら勝手に飛べるようになった。多分、どのカラスもそうだ。 トンビだってそうなのだろう。 あのトンビの飛行訓練は完全にパフォーマンス用なのだ。 餌を取るだけならあんなきれいな円を描く必要がどこにある。 儂などはギザギザに飛んだ経験がある。 アホガラスは尻に石を当てられ、傾いた状態で飛んでいた。 一度でいい、トンビの尻に石をぶつけてその飛び方を見てみたい。 残念ながら、カラスは石をほうれない。
くま邦彦:作文家 / 2024/12/17 改稿